最終更新日: 2024年4月12日

JSTQB(ソフトウェアテスト技術者資格認定組織)は、Foundation LevelシラバスVersion 2023V4.0 日本語翻訳版(以下、2023年版)を2023年9月に公開いたしました。ISTQB (国際ソフトウェアテスト資格認定委員会) が 2023年5月にリリースした Foundation Level シラバスVersion 2023V4.0を日本語訳したものです。この記事では、「3.静的テスト」の章における2018年版からの具体的な変更点を解説いたします。なお、各章のタイトルや見出しは、最新版である2023年版に合わせております。

3 静的テスト(2023年版・2018年版共通)

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2023年版では、2018年版から以下のようにキーワードが追加・削除されています。

共通のキーワード2023年版において削除された
キーワード
2023年版において追加された
キーワード
•インスペクション
•ウォークスルー
•テクニカルレビュー
•レビュー
•動的テスト
•形式的レビュー
•静的テスト
•静的解析
•非形式的レビュー
•アドホックレビュー
•シナリオベースドレビュー
•チェックリストベースドレビュー
•パースペクティブベースドリーディング
•ロールベースドレビュー
•不正

2023年版ではレビュー関連のキーワードが複数削除されていますが、2018年版にある「レビュー技法の適用」というサブセクションが2023年版では省略されていることが影響していると考えられます。

構成の比較は以下の通りです。

2018年版2023年版
3.1 静的テストの基本.
3.1.1 静的テストで検査可能な作業成果
3.1.2 静的テストの利点
3.1.3 静的テストと動的テストの違い

3.2 レビュープロセス
3.2.1 作業成果物のレビュープロセス
3.2.2 形式的レビューでの役割と責務
3.2.3 レビュータイプ
3.2.4 レビュー技法の適用
3.2.5 レビューの成功要因

3.1 静的テストの基本
3.1.1 静的テストで確認可能な作業成果物.
3.1.2 静的テストの価値
3.1.3 静的テストと動的テストの違い

3.2 フィードバックとレビュープロセス
3.2.1 早期かつ頻繁なステークホルダーからのフィードバックの利点
3.2.2 作業成果物のレビュープロセス
3.2.3 レビューでの役割と責務
3.2.4 レビュー種別
3.2.5 レビューの成功要因.

両シラバスとも、静的テストの基本的な概念、静的テストと動的テストの違いについて説明しています。また、レビュープロセスの重要性や、レビューでの役割と責務、レビューの成功要因などについて解説している点も共通しています。

2018年版の「静的テストの利点」は、2023年版では「静的テストの価値」と表現が変わっています。これは、静的テストの重要性をより広範な価値観として捉え直し、単なる利点を超えた影響を強調している可能性があります。また2023年版には「早期かつ頻繁なステークホルダーからのフィードバックの利点」という新しいサブセクションが追加されています。これは、アジャイルやDevOpsのような現代の開発プラクティスが強調する早期フィードバックの重要性を反映していると言えます。

2018年版にある「レビュー技法の適用」というサブセクションは2023年版では省略されています。ここでは、アドホックレビュー、チェックリストベースドレビュー、シナリオベースドレビューなどの具体的なレビュー技法が解説されていました。

3.1 静的テストの基本

【冒頭の文章】

両シラバスとも、静的テストがソフトウェアを実行する必要がないこと、コードやその他の作業成果物の人手によるレビューやツールを使用した静的解析を通じて評価されることが強調されています。
その上で2023年版では、静的テストの適用例(実例マッピング、ユーザーストーリーの共同作成、バックログリファインメントセッションの協力)や特定のプロセス(「準備完了の定義」など)に関する、より詳細な説明を提供しています。また、静的解析ツールがCIフレームワークに組み込まれることや、スペルチェッカーや可読性向上ツールなど、具体的なツールの種類にも言及しています。さらに、テスト担当者、ビジネス側の代表者、開発者が共同で取り組むプロセスについて具体的に言及しており、チーム間の協力とコミュニケーションの重要性をより強調しています。

3.1.1 静的テストで確認可能な作業成果物(2018年版:3.1.1 静的テストで検査可能な作業成果物)

【共通点】

両シラバスで、静的テストが様々な作業成果物に適用可能であることが述べられており、具体的な例(仕様、コード、テスト計画書など)が挙げられています。読んで理解可能な任意の作業成果物がレビューの対象となり得ること、そして特定の構造を持つ作業成果物(一般的にコードやモデル)が静的解析に適していることを示しています。

【変更点】

•具体的な作業成果物の例:
2018年版では、エピック、ユーザーストーリー、受け入れ基準、アーキテクチャーおよび設計仕様など、より詳細な作業成果物の例が提供されています。一方、2023年版では、要件仕様書、ソースコード、テスト計画書など、より一般的なカテゴリーに焦点を当てています。

•静的解析の適用範囲:
2018年版では、静的解析が自然言語で記述された作業成果物(要件など)にも適用できることを示しており、誤字脱字、文法、読みやすさを評価するために使用できることを強調しています。2023年版では、静的解析のための「構造が必要」とし、特定の作業成果物に対する適用の限界についても言及しています。

•静的テストに適さない作業成果物:
2023年版シラバスで新たに導入された概念で、静的テストに適さない特定の種類の作業成果物(例えば、法規制がある第三者の実行可能コード)に言及しています。

3.1.2 静的テストの価値(2018年版:3.1.2.静的テストの利点)

【共通点】

•欠陥の早期検出:
両シラバスともに、静的テストがソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)の初期段階で欠陥を検出できることが強調されています。これは、後の段階での欠陥修正よりもコストが低く抑えられるという早期テストの原則を満たしています。

•動的テストでは検出できない欠陥の識別:
静的テストが動的テストでは見つけられない特定の種類の欠陥を検出できる点も、両シラバスにて言及しています。

•コスト削減:
静的テストの実施が最終的にプロジェクト全体のコストを削減することに貢献するという点も、両シラバスで言及されています。

【変更点】

•利点の詳細:
2018年版シラバスでは、静的テストの利点がより具体的に列挙されており、開発の生産性向上、テストにかかるコストと時間の削減、ライフサイクルの終盤または本番リリース後に検出される欠陥数の減少などが詳細に説明されています。

•コミュニケーションとステークホルダー間の理解:
2023年版では、静的テストがステークホルダー間のコミュニケーションと共通の理解を促進することの価値に特に焦点を当てています。また、様々なステークホルダーが参加することを推奨しています。

•文書化された要件の検証:
2023年版シラバスは、静的テストが文書化された要件を検証し、それが実際のニーズを反映していることを確認する手段としての価値を強調しています。

•静的解析とレビューのコスト効率:
2023年版では、静的解析が動的テストよりも効率的にコードの欠陥を検出できる点や、レビューの実施がプロジェクト全体のコストを削減するという点が、より詳細に説明されています。

3.1.3 静的テストと動的テストの違い(2018年版・2023年版共通)

【共通点】

•相互補完性:
両シラバスで、静的テストと動的テストが相互に補完し合っていることが強調されています。両者は作業成果物の欠陥検出を支援する目的で使用され、それぞれ異なる種類の欠陥を検出します。

•欠陥の直接検出:
静的テストが作業成果物の欠陥を直接発見する一方で、動的テストは故障を引き起こし、その後の分析によって関連する欠陥を特定する点も、両シラバスで言及しています。

•検出可能な欠陥の種類:
両シラバスで、静的テストが早期または安価に検出できる欠陥の具体的な例が列挙されています(例:要件の欠陥、設計の欠陥、コードの欠陥など)。

【変更点】

•詳細度と表現の違い:
2023年版は、静的テストと動的テストの違いについて、より簡潔かつ直接的な表現を使用しており、静的テストの適用可能性(例えば、実行不可能な作業成果物に対して)と動的テストの限界をより明確にしています。

•品質特性の測定:
2023年版は、静的テストと動的テストが測定可能な品質特性の違いについて明示しています。静的テストは実行に依存しない品質特性(例えば、保守性)を測定し、動的テストは実行に依存する品質特性(例えば、性能効率性)を測定すると述べています。

•静的テストの適用範囲の拡張:
2023年版では、静的テストが実行不可能な作業成果物に適用できることを強調し、この点を新たに加えることで静的テストの適用範囲をより明確にしています。

3.2 フィードバックとレビュープロセス (2018年版:3.2 レビュープロセス)

【冒頭の文章】

2018年版の要約は以下のとおりです。

レビューには非形式的なものから形式的なものまで様々な種類があり、その形式はソフトウェア開発のライフサイクルモデル、開発プロセスの成熟度、作業成果物の複雑さ、法律や規制の要件、監査証跡の必要性などによって決定される。非形式的レビューはプロセスが定義されず、結果が形式的に文書化されないのに対し、形式的レビューでは参加者全員が関与し、結果と手順が文書化される。レビューの焦点は、欠陥の発見、内容理解、参加者教育、合意形成など、レビューの目的によって異なる。ISO/IEC 20246標準では、役割や技法を含むレビュープロセスの詳細が説明されている。

※2023年版では、冒頭の文章は省略されています。

3.2.1 早期かつ頻繁なステークホルダーからのフィードバックの利点

※2018年版には含まれていない内容です。

2023年版の要約は以下の通りです。

SDLC全体を通じて早期かつ頻繁にステークホルダーからのフィードバックを得ることは、潜在的な品質問題を早期に識別し、プロダクトがステークホルダーのビジョンを満たしているか確認する上で重要である。ステークホルダーの関与が不足していると、プロダクトが期待を満たさず、コストの増加、納期の遅れ、責任の問題、さらにはプロジェクトの失敗につながる可能性がある。定期的なフィードバックによって要件の誤解を防ぎ、変更を迅速に対応でき、開発チームはステークホルダーに最大の価値を提供し、リスクを管理するためのフィーチャーに集中できるようになる。

3.2.2 作業成果物のレビュープロセス(2018年版:3.2.1 作業成果物のレビュープロセス)

【共通点】

•レビュープロセスの構成:
両シラバスで、レビュープロセスが計画、レビューの開始、個々のレビュー、懸念事項の共有と分析、修正と報告の主要活動で構成されている点が共通しています。

•計画フェーズ:
レビューの範囲の定義、レビュー対象の作業成果物、評価すべき品質特性、工数と時間の見積もりなど、計画フェーズの重要性が強調されています。
活動の詳細:
レビューの立ち上げ、個々人のレビュー実施、識別された問題の共有と分析、修正アクションの決定と報告など、レビュープロセスの各ステップの詳細が説明されている点も共通しています。

【変更点】

•レビュー技法の詳細:
2023年版では、個々人のレビューで適用されるチェックリストベースドレビュー、シナリオベースドレビューなどの具体的なレビュー技法についての言及がありますが、2018年版では、ここではこれらの技法の言及はありません。(「3.2.4 レビュー技法の適用」というサブセクションにて各技法について詳細に解説しています)

•柔軟性と調整の強調:
2023年版では、ISO/IEC 20246 標準が汎用的なレビュープロセスを定義していることに触れ、レビュープロセスが柔軟であり、特定の状況に応じて調整可能であることが強調されています。また、作業成果物の大きさにより、一度のレビューで全てをカバーすることが難しい場合があるため、全体を完全にレビューするためには、プロセスを2回または3回繰り返す必要があると述べています。
これに対し、2018年版ではレビュープロセスの詳細な活動により焦点が当てられています。

3.2.3 レビューでの役割と責務(2018年版:3.2.2 形式的レビューでの役割と責務)

【共通点】

•関与する役割:
両シラバスで、マネージャー、作成者、モデレーター(ファシリテーター)、書記(記録係)、レビューア、レビューリーダーという役割がレビュープロセスに関与することが述べられています。

•役割の説明:
各役割の基本的な責務が同様に説明されています。例えば、マネージャーはレビューのためのリソースを提供し、作成者は作業成果物を作成および修正し、モデレーターはレビューミーティングの運営を効果的に行う、などです。

•ISO/IEC 20246標準:
両文章ともISO/IEC 20246標準に言及しており、役割をさらに細かく分割することが可能であると述べています。

【変更点】

•文脈と焦点の違い:
2018年版では形式的レビューに特化して役割と責務を説明していますが、2023年版ではレビュープロセス全般にわたる役割と責務を説明しています。このため、2018年版では形式的レビューにおける特定のニュアンスや詳細が強調されています。

•役割の詳細:
2018年版では、形式的レビューに特有な役割の責務についてより詳細な説明がなされています。一方、2023年版はレビュープロセスにおける役割の一般的な説明に留まっており、より簡潔にまとめられています。

3.2.4 レビュー種別(2018年版:3.2.3 レビュータイプ)

【共通点】

•レビューの目的と種類:
両シラバスにおいて、レビューがさまざまな目的で使用されることに言及しています。また、一般的によく使われる種類として、非形式的レビュー、ウォークスルー、テクニカルレビュー、インスペクションの4種類について解説しています。

•レビューの選択基準:
両シラバスにおいて、レビュータイプの選択がプロジェクトのニーズ、利用可能なリソース、プロダクトの種類とリスク、ビジネスドメイン、企業文化に基づくべきであると述べられています。

•レビューの柔軟性:
同じ作業成果物に対して複数のタイプのレビューを行うことがあり、レビューの実施順序が一定ではないという点も共通しています。

【変更点】

•必要な形式的レベルに関する言及
2023年版では、形式的レベルに関する以下の文章が追加されています。

必要な形式 的レベルは、従う SDLC、開発プロセスの成熟度、レビューされる作業成果物の重要性と複雑度、法的 または規制上の要件、および監査証跡の必要性などの要因に依存する。

•ピアレビューについての言及
2018年版では、ここで解説している4つのレビューはピアレビューとして行えること(組織内の同じ職 位の同僚によって行う)ことに触れていますが、2023年版においては特に言及していません。

•レビュー種別の解説の詳細度:
2018年版では、非形式的レビュー、ウォークスルー、テクニカルレビュー、インスペクションという4つのレビュータイプについて具体的な説明があり、それぞれの目的、実施方法、およびレビュー時に使用することができるツールや手法(チェックリストの使用の任意性など)について詳細な情報を提供しています。
一方で2023年版では、それら4つのレビュータイプを概説しているものの、2018年版ほどの詳細は提供していません。それぞれの目的や概要については言及していますが、実施方法の詳細や、チェックリストの使用、レビューミーティングの具体的な運営方法に関する情報は省略されています。
この違いは、2018年版がレビュープロセスをより実践的な視点から解説しているのに対し、2023年版はレビュープロセスの選択と適用のためのより戦略的、計画的な視点を提供していることを示していると言えます。

3.2.5 レビューの成功要因(2018年版・2023年版共通)

【共通点】

両シラバスともに、以下の点に言及しています。
•明確な目的と終了基準:
レビューの成功には明確な目的と測定可能な終了基準を定義することが重要であること。

•適切なレビュー種別の選択:
プロジェクトのニーズや状況に合わせて適切なレビュー種別を選択する必要性。

•十分な準備時間の確保:
参加者には適切な準備時間を与えることが大切であること。

•マネジメントの支援:
レビュープロセスに対してマネジメントからの支援を受けることの重要性。

•トレーニングの提供:
参加者に適切なトレーニングを提供すること。

【変更点】

•詳細度:
2018年版では、レビューを成功させるための要因を、組織的な要因と人的な要因に分けて詳細にリストアップされ、各要素について具体的なアクションが提案されています。これには、レビュー技法の適用、チェックリストの状態保持、大きなドキュメントの分割、品質コントロールのためのフィードバック提供方法などが含まれます。

2023年版では、成功要因がより概要的に述べられており、具体的なアクションへの言及は少なくなっています。

•観点:
2018年版では、組織的および人的要因に分けてレビューの成功要因を具体的に説明し、レビューを実施する上での組織や参加者の行動指針を提供しています。たとえば、「ミーティングは参加者にとって有意義な時間となるよう適切にマネジメントする」「参加者は、自分の言動が他の参加者に対する退屈感、憤り、敵意だと受け取られないように気を付ける」など、かなり具体的で実践的な指針へ落とし込んでいます。2023年版では、レビューの成功要因を一般的に述べることで、全体的なガイドラインを提供し、レビューを成功に導くための基本原則を強調しています。

一方で、2023年版において新たに追加された記述は以下の通りです。

参加者の評価は、決して目的にしてはならない

レビューからステークホルダーや作成者へフィードバックを提供し、ステークホルダーや作成 者がプロダクトおよび自分たちの活動を改善できるようにする

レビューを組織の文化として定着させ、学習とプロセス改善を促進する

(2018年版にも、“学習とプロセス改善の文化を醸成する。”という記述はありますが、2023年版では「定着」という言葉を使い強調されています。)

ミーティングをファシリテートする

2023年版シラバスはこちら
https://jstqb.jp/dl/JSTQB-SyllabusFoundation_VersionV40.J01.pdf
2018年版シラバスはこちら
https://jstqb.jp/dl/JSTQB-SyllabusFoundation_Version2018V31.J03.pdf